夏の雲雀は かろやかに

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


       
終 章



 事情聴取のためにと、彼女らが連れて行かれたのは、毎度お馴染みの警視庁であり。

 「そんなご大層な事件でしたか?」
 「〜〜〜〜?」
 「あ、そっか。あちこちの現場が管轄違いだから。」

 彼女らが人質になってた
(?)現場は某市の女学園だが、その前にサナエさんが拉致され、師匠のオーナーカメラマンさんが監禁状態にあったスタジオは別の区だし、そのサナエさんが保護されたファミレスも、また別の区にあったとかで。関係各所が広域というか、複数の所轄へまたがっているので、警視庁預かりになったと思われて。ついでのもう1つ理由を挙げるとすれば、

 「…っ、シチちゃんっ!」
 「叔母様っ!」

 数時間ほどとはいえ、得体の知れない連中に連れ回されていたことで、少なからず憔悴していたサナエさんだったが。頼もしい助っ人に救出されたことで、お元気も復活しておいでのようであり。叔母と姪御が手を取り合って、無事な再会を喜び合う。

 「あなたが警部補へ連絡してくれたんですってね。」

 誰にも気づかれないままなんじゃあって、それがとっても怖かったけれど、と。自慢の姪御のまだちょっぴり幼い肩口へ、ちょこりとおでこを乗っけた叔母上であり。何の、たった一人で、だのに取り乱さずにいた気丈夫さは さすがお主の血縁よのと。勘兵衛からの称賛のお言葉を、後日に七郎次がこそりといただいたほど、どちらもなかなか頼もしい女性たちであり。そんな彼女らの感動の再会の傍らでは、

 「まったくお主らと来たら、
  危ないことへは首を突っ込むなといつも言うておったろが。」

 カモフラージュのボーイ服は、当然のこと とっくに着替えた壮年殿。実をいや、勤務という縛りのない舞台での活劇をこなしたばかりとあって、結構楽しげなのだが、それを表へ出すのは彼女らの教育上よくないからと何とか引っ込め。口許曲げての鹿爪らしいお言葉を下さった島田警部補殿。彼が主導する形で総指揮を執ったがため、警視庁扱いになったとも言えて。そういう融通をも利かせた凄腕にもかかわらず、

 「まったくと言いたいのはこっちです。」

 こっちはこっちで赤毛のひなげしさんが黙っちゃあいない。セーラー服の腰に小さめの拳をあてがい、ぐんと胸を張った毅然とした格好と、目許を細く引き絞っての眇めっぷりは なかなかに威圧的でもあって。

 「危険だろうと思ったからこそ、こっちだって速攻で警部補へ頼ったというに。」

 それを大威張りで言いますかいと、勘兵衛の後背にて征樹がこっそり苦笑したよな、微妙な言い回しで対抗した平八は、むんと威勢を張った態勢のままで言葉を続け。

 「サナエ叔母様を迅速に助け出して下さったのはいいとして、
  こっちは放ったらかしでしたものね。」

 「…、…、…。(頷、頷、頷)」

 「無茶を言うな。
  一度に、しかも距離があった二か所を、どうやって同時に制圧しろと。」

 しかもそちらは名門女学園の敷地内だったのだろうが? 確証もなけりゃあ令状もないまま、警察官とはいえ、ほぼ男ばかりの一個小隊をそうそう突入させられると思うてか。そういうの“おためごかし”って言いません? 何となりゃ、非合法すれすれなことを侵犯すれすれでこなしもする、敏腕警部補さんなくせに…と。なかなかに鋭い舌戦を交わしていた、古ダヌキと米ダヌキの対峙だったが、(何だそれ・笑)

 「ヘイさん、もういいよ。」

 一番に案じていた叔母様の無事を、しっかと確認したことでやっと落ち着いたらしい七郎次。白い頬をうっすらと桜色に染め、そりゃあ愛らしく微笑んで、

 「勘兵衛様、
  こたびは私たちが巻き込まれたことで、
  お忙しい身を引っ張り回してしまいましたね。」

 正式な届けも通報もなかった格好の、個人的な呼び出しのようなもの。いやさ、曖昧な言い回しのメール一本で、こちらの窮状を察してくれという我儘をしたのへと、こうまで見事に対応し、それは迅速に充分すぎる結果を出して下さったのが、七郎次にはやはり嬉しい。相変わらずの長っとろい蓬髪も、顎にたくわえられたお髭も、白百合様にはただただ精悍で男らしい要素でしかなく。ああお変わりなくておいでだなぁと、向かい合ってるだけで胸底がほわりと温まる。
「お主らの方が、後回しになってしもうたな。」
「いえ。」
 平八は咬みつくようにして非難していたが、叔母を助け出すのと同時になんて無理な話だというのは重々承知。
「怖い目におうたのだろうに。」
 あらためて訊かれたが、白い手で胸元を押さえたまま、それへとゆるゆるかぶりを振って見せ。

 「胸のどこかが確かに不安で、
  きゅうと絞めつけられたようにもなっておりましたが。」

 庁舎の明るい廊下の途中。真夏の目映い光をその身の片側へと浴びた少女が、それは綺麗に咲き笑い、

 「でも、大丈夫でした。だって、皆がいてくれましたから。」

 元はもののふ、普通の少女とは気概が違う。それに、大好きな彼女らがいてくれた。頼もしいったらありゃしない彼女らが。勘兵衛からの返事も うんともすんともないままで、サナエ叔母様のことがずっと心配だったけど。それでぎゅうぎゅうと絞め上げられてた胸の痛さも、彼女らが手を握っててくれたから、傍にいてくれたから。取り乱すこともなくの気丈なままでいられたのだと、やはり余裕のある笑みを見せる七郎次であり。

 「お主も返信がなかったを責めるか?」
 「いえ。ただ、このまま返答なしで方がついたなら、
  島田を殴り飛ばしてやると久蔵殿が。」

 シチに心細い想いをさせおって…って、かなり怒っておいででしたと。あらためてのこと、くすりと小さく微笑って見せた七郎次であり。大きなことを言いおるなと、事情聴取はいつ始めるのか、すっかりと雑談モードに入っておいでのお二人で。勘兵衛からの返事がなかった間、不安だったには違いなかろう七郎次だったのだろうにと思い、代理で怒ってやったのもこれじゃあ意味なかったかなと。やれやれと肩をすくめた平八へは、

 「ヘイさん。」
 「え?」

 随分と意外な間合いで、聞き慣れたお声が飛び込んで来。素直に振り向けば、そこには今朝方、出掛ける自分を見送って下さった偉丈夫が。

 「ゴロさん?」
 「学校のほうで何やら騒ぎがあったのだろう?
  パトカーが山ほど詰め掛けていたので案じて出て来たのだ。」

 女学園へは徒歩ですぐだが、パトカーといやぁと警察関係者の知人を思い出し、途中で勘兵衛へと連絡を取ったところ、平八に逢いたいなら警視庁へ来たほうが早いぞと言われたので、と。何とも段取りよく行動した彼の、そんな小癪なところへと、唖然としたのも束の間のこと。

 「ゴロさんたら、もうもうもうっ!」
 「わ…っ。」

 駆け寄りながら、その途中で瞬発力よくぴょいと跳ね。取り落とさぬよう、慌てて広げられた頼もしい腕の中、雄々しい懐ろへと飛び込んで見せる。いつもいつもこの自分を甘やかし倒す素敵なお人。飄々として見せながら、その実、どこかで潔癖が過ぎ。清濁を合わせ飲めず、人を裏切った自身のことさえ嫌ってたほど、どうしようもなく間口の狭い自分を。彼は、そのどこまでも尋広い懐ろで、いつだってどーんっと受け止めてくれて。何をもさておき、こんな自分を最優先してくれて……。

  腹は空いとらんか?
  ん〜と、少し。
  そう思って握り飯を作って来たぞ?
  わあ、嬉しいですvv

 そちらさんもまた、周囲が視野に入ってません状態へとなだれ込んでしまったお二人であり。

 「……。」

 ああ、いいなぁと。シチも林田も、二人とも幸せそうで良かったと、久蔵の目許が仄かな笑みでたわむ。彼らの幸いは、我が身への幸い。我がことのように久蔵自身も胸がほくほくする。いつからだろうか、そうと自然に感じられるようになった。だって、大好きな…大切な友達だから。彼女らが嬉しいと自分も嬉しいし、苦衷にあれば何とかしなきゃあと血が沸き立つ。こればっかりは前の“生”にても持ち得なかった感情であり、

  ああ、でも

 どうせなら自分も誰かと向かい合ってたいなと。こうやって放り出されているのはちと寂しいかなとも思った。誰かと共有する嬉しいとか楽しいは、あまりに大きくて得難いものだから、手元から取り上げられるとその反動も大きくて。

 「……久蔵。」
 「…………?」

 え?と上げた視線の先に、信じられない影がある。確か、明日戻って来ると言ってなかったか。それだってかなりのこと、日程を無理に切り詰めた予定ならしくて。いいか、俺がいない間に妙な騒ぎを起こしてるんじゃないぞ? 八月には公演があるのだろ? 無茶をして疲弊をためて、肝心な当日に引っ繰り返ってちゃあ何にもならん、よしか?と。帰って来るまでいい子でいろと、さんざんっぱら注意を授けてった彼だのに。

 「早い。」
 「だったら詐欺だとでも言いたいか。」

 ボストンバッグを提げていた腕を萎えさせ、肩をかくりと落として見せた彼こそは。腰まであろうかという直毛の黒髪といい、ちょっぴり鋭角的な目鼻立ちに、淡い色つきのサングラスがすっかりと板についてる面差しといい。
(もしもし?) 間違いなく、久蔵の主治医殿の兵庫であり。京都で催されていた数日がかりの学会に出ていたはずだのにと目元をしばたたかせる久蔵へ、このところの猛暑続きという非常事態とそれへ対応出来る医師の補完のため、向こうでの発表や懇親会とやらが随分と切り詰められていたものだから、結果 半日以上も早めに終わったのだと手短に説明をくれて。それでと取るものもとりあえず、何かしら虫の知らせでもあったのか、随分と大急ぎで戻って来たのだそうで。

 「東京へ着いて早々、
  お前の実家へ連絡を入れたら、学校へ行っているという。
  それで、学校といやあと、
  片山氏へそちらへ寄ってはないかとの連絡を入れたら……。」

 この騒ぎだというじゃないかと言いたかったらしい彼だったが、そんなところまで聞いておれるか。ああ、何ていい間合いに現れてくれたことか。たたたっと駆け寄って、だが、自分は平八みたいな無邪気なことはどうにも苦手で。あとちょっとでくっつけるそのすんでで立ち止まると、えとあのそのその…と口元をぱくぱくとさせているばかりの、相変わらずに要領を得ない教え子さんへ、

 「久蔵?」

 どうかしたかと小首を傾げ、それからそのまま、落ち着きなさいと…すべらかな頬へと手のひら伏せて、そおとゆっくり撫でてやれば。

 「〜〜〜〜〜。//////////」

 ふわふかでけぶるような金の綿毛を震わせて、だが、大人しくなると…頭を垂れて見せ。そのままおでこをこちらの肩へ乗っけて甘える。こんな甘え方をするようになったのはいつからのことか。身長に差が無くなって来たころからなら、中学に上がった辺りからかなぁ。見えるところにいても見えないほど離れていても、結局はこの心を占めている存在になりつつある少女のことを、兵庫がそれと気づくのはいつの日だろか。


  そして、
  皆さんが事情聴取を始めねばと気がついてくれるのに、
  あとどれほどかかるのか。

  さて、ここで問題です。(こらー)










  おまけ その1;後日のひとこま。

 「ところで勘兵衛様。」
 「んん?」
 「一体どんな手で叔母様を助け出したのですか?」
 「?? 何でだ? 今更。」
 「叔母様が、それは素敵な御方だったって事ある毎に言うのですもの。
  懐ろから聞いたのがそれはいいお声で、
  執事喫茶のナンバーワンだと言っても通りそうだった、とか。」
 「う……。」



  おまけ その2;タイトルの秘密vv

 「それにしても、
  いくら思うところをすぱすぱ読んでくれる二人だとはいえ。」
 「そうよそれ。」

 一通りの話を聞いた後日、大人の皆様が最も驚異と脅威を感じたのが、三人娘の以心伝心の物凄さ。

 「兵庫殿を前にして言うと無礼と叱られそうだが、
  あの寡黙な久蔵殿が思う尋、よくも通辞合わせが素早く出来たものよの。」

 晩は不定期ながら、八百萬屋の隣りの店舗で、四季折々のカクテルなぞを出す、小さなカウンターバーを開いておいでの五郎兵衛殿で。そこへと、暇の間合いが丁度合ったの見計らい、勘兵衛と兵庫とを五郎兵衛が招いての、ちょっとした茶話会ならぬ“酒話会”をもつのが、いつの間にやら恒例となっている大人サイドの男衆たちであり。先の騒動、裏に潜むものへと気づけたのも、それへの対処を見事に取れたのも、前世から持って来ていた蓄積もあってのことと…それから。同座していた顔触れがいかに息が合っていたかも関わっていようこと。とはいえ、ほんのすぐそばに、監視していた男連中がうろうろしていたも同じな状況。何か怪しいと思わない?と、声高にお喋りして意見を詰める…なんて、到底出来なかっただろうし、と。だっていうのに、よくもまあ、ほんの半日足らずで何だか怪しい撮影会の真の顔を見抜き、外部の人間への巧妙な連絡までこなせようとは。

 「…そうか、メールをやり取りしたのかも。」
 「だが、文面を読まれては危険だろう。」

 打ち込み中の液晶画面、盗み見られては同じこと。現に、勘兵衛へのメールは何だかややこしい文面へと工夫がされてもいたほどで。その点は彼女らも用心していたことが伺えるから、じゃあやっぱり違うのかなと、結局 結論は出なんだ謎だったが、

 『ああ、それですか。つぃったーですよう。』
 『そうそう。しかも閲覧限定にしてのローマ字打ち。』
 『変換しないと英文に見えるらしくて、まず覗かれないしねvv』
 『それに、あれだと久蔵、たくさん話すんですよね。』
 『口は重いが手は早い?』
 『そういうところも前世と変わらないんだねぇ。』


  『…打ち込まにゃあ会話にならぬから意味がなかろう。』


  お後が よろしいようで……。






    〜Fine〜  10.07.30.〜08.06.


  *この暑いのに長々としたお話、お付き合い感謝ですvv
   何だか〆めが随分とよろよろしている展開でしたね。
   乱闘シーンを書き終えたと同時、
   気が抜けてしまったと思われます。
(おいおい)

   ついったーは参加したことはありませんが、何だか楽しそうなので。
   それを使って、こちらの3人もいろいろお喋りしてんじゃないかなと。
   で、とある寡黙なお嬢さんも、
   これを使うに当たっちゃあ、指先動かして意志表明しないとと、
   結構頑張って身につけてたら、
   こういう応用も出来たりしてなと思いまして。
   そう、雲雀というのは“さえずる”の仄めかしだったわけですね。
   判りにくいタイトルですいませんでした。

   そうこうした結果、
   久蔵殿の語彙も増えての、てきぱき意見が言えるようになったら、
   なかなかの効果なのですが、
   残念、指が早いだけとなりそうです。

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